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共通基礎実習

1年生の「身体運動・健康科学実習」において、夏学期に2回、冬学期に2回、全員共通の「基礎実習」を行う。

この実習の目的は、教科書6頁にある「身体運動関連授業科目の教育目標」を実現するため、スポーツから労働作業や日常生活行為まで、あらゆる行為に共通する基礎である「動くからだ」の科学的原理を、実際に自分の身体を使って学ぶことにある。

運動や力が、脳・神経・骨格・骨格筋・心臓や、それらを構成する細胞などの基本的な生命システムによって、どのように生み出されているのか(人間の基本動作、呼吸循環と健康)、脳が生み出す感覚や感情などの心的過程が運動や力とどのように関わっているのか (つもりと実際)、生命体としての身体を適切に保全するにはどうすればよいのか(救急処置)、など、「自身(自分の身体)」を知り、からだとこころの調和のとれた、本質的な健康のあり方を学ぶ。

つもりと実際

ねらい
自分の感覚による主観的運動強度と実際の物理的出力強度(本授業では,握力となります)との対応関係を確認し,自分のスポーツなどの身体運動経験との関連から,測定結果の意味を考察する.さらに,主観と客観のずれを確認することで,今後の身体運動(スポーツに限らず日常生活における活動)における巧みさを意識する.

運動課題は,握力を主観で5段階等間隔に出し分け,最大握力感覚を100%とし,その80%,60%,40%,20%と思う力を無作為に発揮する.まず,2人組をつくり,ランダマイズするためにくじ引きにより順序を決定し,それを用紙に記録する.
順序が決まったら,パートナー(記録係)が課題を掲示し,その課題に相当すると思う力を発揮する.
パートナーは,1課題終了ごとに出力(握力)を記録する.このとき注意することは,被検者(力を発揮する人)はその出力値を見てはいけない.また,パートナーは出力値を記録する際,声を出したり,表情を変化させてはいけない.
2人とも課題が終了したら,出力値の強度(最大握力のパーセンテージ)を計算する.その後客観的強度と主観的強度との関係を図示する(写真).
両者の関係について近似し,主観と客観のずれについて考察する.

救急処置

ねらい
大人の常識ともいえるファーストエイドを科学的根拠も含め体得すること
生命徴侯バイタイルサイン(呼吸、脈拍、血圧)をチェックすること、救急事態に陥ったと想定した人を大勢で運搬する実習を行う。

呼吸、脈拍のない場合に行うべき、心肺蘇生法CPR・自動体外式除細動器AEDと生命の危険はないが初期治療として覚えておきたい局所の救急処置RICEの処置の基本とやり方を学ぶ。

具体的には、2人一組となり、互いにリカバリーポジションをとってバイタルサインのチェックを互いに行う。

4組が集まり、-人が運ばれる人を演じ、大勢で安全なところに運ぶ実習を行う。バイタルサインが異常で必要なとき心肺蘇生法を行わねばならない。

訓練用の人形を用い実際に心肺蘇生法実習を行う。2006年から心マッサージを30回連続して行い、続けて2回マウスツーマウスで人工呼吸を行うようにマニュアルが変更された。このCPR:30:2、100/分のペースで行う。

体外式除細動器AEDについてはその原理と使い方だけでなく,心室細動や刺激伝導系についての教科書補遺の記述を読み、レポートに記入する。

CPR実習の順番を待つあいだに互いに包帯を肘関節に巻き、三角巾で吊る実習を行う。

局所の救急処置としてRICEの処置とよばれる-連の処置の原則を学ぶ。

Restは局所、壊れた部位の安静である。傷ついて弱くなった受傷部の二次外傷の予防でもある。具体的には手当、包帯、装具、ギプス、手術などがある。ついで、Icing氷冷、Compression圧迫、Elevation高挙は受傷した部位で起こる炎症の最小化を目指すものである。そのうちの氷冷の実習を行う。 氷を足関節にあてがい、アイシングを体験する。アイシングの4つの相、冷たい、痛い、ほっとした感じ、無感覚を自分のことばで書く。

基本動作

ねらい

人間の動きには,歩く,立つ,座る,這うなどの基本動作がある.これらの基本動作をなぜヒトは行うことができるのか,を理解する.基本動作の理解のためには,まずヒトの身体の構造を脊椎・骨盤の解剖学的特性をひることが必要である.また,骨格のみならず,骨格の動きを引き起こす筋肉の働きを理解する必要がある. 筋肉は神経系からの指令により制御されているため,筋の電気的活動を反映する筋電図を取得することで基本動作中の筋肉の活動を定量することができる.
授業のねらいを学生に意識させるとともに,脊椎・骨盤の解剖学的特性と筋肉との関連性をDVDの解説とともに説明する.

2人組をつくり,脊椎・骨盤の動きを体験および意識する.立位で脊椎を左右側屈を行う.そのとき,パートナーは角度計により頭の傾き,胸椎の傾き,骨盤の傾きを計測する(写真).
立位体前屈も測定する.
全組の計測が終了したら,教員の指導のもと脊椎・骨盤を意識したストレッチを行う.その後,同様の計測を行い,ストレッチによる脊椎・骨盤の動きの影響を数値化する.

立位時の足圧の分布をフットビューという装置で調べ,身体重心が後傾していないか,あるいは前傾しすぎていないかを確認する

筋電図の計測については,全員が体験することは物理的に不可能なので,1名のみ計測し,その測定値を前方のスクリーンで理解する.この写真は,被検者に筋電図電極を貼っているところである.

座り立ちをしているときの下肢筋群の筋電図を前方のスクリーンでリアルタイムに表示し,筋肉の活動の仕方などを教員が説明する.さらに,いろいろな動作を被検者に行ってもらい,そのときの筋肉の活動パターンを理解する(写真).

単に,歩く,立つという基本動作であっても,様々な筋肉が規則的に働くことに学生たちは驚き,日常生活の動作についても意識するようになる.

呼吸循環と健康

ねらい

運動時の心拍数はどのように変化するかを知り、エネルギー需要を身体が把握して調整していることを学ぶ。健康維持のためにちょうど良い運動強度があることを理解する。

運動時のエネルギーは、主として糖や脂肪からミトコンドリアが酸素を利用してATPの形で生み出されている。運動のエネルギー消費量を求めたい場合に、糖や脂肪が消費された量を直接測定するのは困難だが、酸素が使われた量は、酸素が肺から取り入れられた量=酸素摂取量とみなしてよいので、測定することができる。酸素摂取量(V02)は最大酸素摂取量(V02max)までの範囲で、運動強度に比例して増加する。運動強度はその時の酸素摂取量の最大酸素摂取量に対する割合(%VO2max)で表すことができる。 ここで酸素の摂取は、血液が肺を通り抜ける際に、ヘモグロビンに酸素が結合することで行われる。そこで酸素摂取量は肺を通り抜ける血液量に大きく依存する。そして肺を通り抜ける血液量はすなわち心臓が送り出した血液量であり、これを心拍出量という。心拍出量=1回に送り出す量x送り出す回数である。そして1回に送り出す量(1回拍出量)はあまり大きく変化できないので、心拍出量は心臓が送り出す回数、つまりは心拍数に大きく依存する。そこで酸素摂取量は心拍数に大きく依存していることになり、心拍数から酸素摂取量を推定することができる。
 運動時のきつさは様々な要因によって起きている。運動強度が高くなるときついのは誰でもわかるが、どのくらいの強度からきつくなるのかというと、大まかには50-70%VO2max、心拍数でいうと120-140(bpm)程度の強度が境目とされる。これより上の強度では、脂肪より糖を多く使うようになり、アドレナリンなどのホルモンが多く出るようになり、速筋線維を多く使うようになる、といった反応が出ることが、きつさと関係していると考えられる。持久走というときついから嫌だという意識を持っている人は多いかもしれない。それは中高時代の持久走大会のような、きつかった経験がもたらしていることが考えられる。しかし健康増進のために運動しようという場合にはきつく追い込む必要はない。きつくない運動強度で走っていれば快調だし、またランナーズハイと呼ばれるような快さが生まれることもある。本実習ではそうしたきつくない強度で運動を継続することを学ぶ。
この実習の目的
・速度に対して心拍数が直線的に上昇していることを知る。またこのことからエネルギー需要を身体が把握して調整していることを学ぶ(教科書52p、58p、198p)。
・運動強度によって、身体の反応が変わっていくことを知る。それを受けて主観的運動強度の考え方を学び、長距離走=きついというのではなく、各人のきつくない至適速度を知り、きつくなく走れる速度があることを学ぶ(教科書55p、202p)。そしてその至適走行速度の心拍数、主観的運動強度を知り、実際の運動に役立てる。
・運動強度は酸素摂取量の最大酸素摂取量に対する割合(%VO2max)で表せること、そして酸素摂取量に近い指標として心拍数が運動強度の指標となることを学ぶ(教科書52-53p)。
・発展として、速度—心拍数関係から、走運動の記録を推定してみる。

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